第30回 池田先生 「第7回本部幹部会」でのスピーチ㊦ 25年3月4日 |
そもそも日蓮大聖人の御書の翻訳を進めることは、大聖人の立宗700年の記念事業として創価学会が御書全集の発刊を成し遂げた時(1952年4月)に、戸田先生が呼びかけていたものだった。 発刊の辞で、「この貴重なる大経典が全東洋へ、全世界へ、と流布して行く事をひたすら祈念して止まぬものである」と訴えていたのである。 池田先生は、日興上人の遺命と戸田先生の熱願を果たすために、まず英訳の推進に力を入れた。世界では英語人口が極めて多いだけでなく、御書の英訳がひとたび完成すれば、それを土台にして他の言語に翻訳する重訳も軌道に乗せることができると、考えたからである。 まさにその構想の通り、『英訳御書』に続いて、世界の三大言語であるスペイン語版の発刊が目指されることになった。 2005年2月、第1段階として24編の御書のスペイン語訳が出来上がり、池田先生のもとに届けられた時、先生はその労苦の結晶を何よりも喜んだ。 その時期に行われた全国最高協議会で、翻訳・監修に携わったメンバーも参加する中、池田先生は御書のスペイン語訳が進んでいることを紹介しながら、こう述べたのだ。 「このほど、二十四編の御書の翻訳が完成し、その原稿が届けられた。 私は、さっそく学会本部の御本尊の御宝前にお供えし、題目を唱えた。私は、本当に、うれしかった。また、日蓮大聖人、日興上人のお喜びはいかばかりかと思うと、胸に迫るものがあった」と。 ![]() 2023年9月、日本とアフリカ24カ国の会場をオンラインで結んで開催された教学研修会。研修会は英語とフランス語に同時通訳して行われ、「佐渡御書」を研鑽。コートジボワールの友は、アビジャンの会場に集い、日蓮大聖人の御金言を勇気の源泉にして共に前進することを誓い合った このスペイン語版の御書は2008年に完成し、現在まで御書の翻訳は、中国語、韓国語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、オランダ語、デンマーク語など、10言語以上に広がっている。 大聖人の御金言の一つ一つを世界中に届けたい――こうした翻訳担当者の陰の努力と、その作業を支える人々の存在あってこそ、御書は、192カ国・地域で活動する同志の“希望の光源”となってきたのだ。 1月から本紙でスタートした新連載「御書の力――THE POWER OF GOSHO」では、各国・地域のリーダーが心肝に染めてきた御書の一節や体験などが紹介されている。 インドのビネイ・ジェイン教学部長は、「開目抄」の「詮ずるところは、天もすて給え、諸難にもあえ、身命を期とせん」(新114・全232)との一節を拝し、こう述べている。 「大聖人の烈々たる言々句々には、私たちの生命を覚醒させる響きがあります」 「この誓願に思いをはせれば、不屈の闘志が湧き上がります。いかなる試練にも微動だにしない大聖人の御境涯は、毀誉褒貶がつきものの芸能界で生き抜く私にとって、人生の規範にほかなりません」 またデンマークのリーネ・スラボウスカ教学部長は、「末法に入って法華経を持つ男女のすがたより外には宝塔なきなり」(新1732・全1304)との一節を挙げて、このように語っていた。 「“人間の生命自体が尊貴な宝塔である”――私が入会した後、『阿仏房御書』の一節に触れて、心が震えたことを鮮明に覚えています。誰一人として無益な存在はおらず、『その人にしか果たせない使命がある』との哲学が、どれほど人々に生きる活力をもたらすか。私自身、地涌の菩薩としての自覚が、2度の流産や母の病を乗り越える原動力になりました」と。 ![]() 2023年3月、スペインの「宗教・異文化間対話協会」が主催して行われた宗教間対話シンポジウム(リーバス・バシアマドリード市のスペイン文化会館で)。仏教団体を代表して、スペイン創価学会のメンバーが登壇した 1966年7月の「経王殿御返事」の英訳が端緒となり、半世紀以上にわたって営々と進められてきた御書の翻訳――。 それは仏法史に輝く偉業であるのみならず、人類の未来のためにも重要な意義があると、池田先生はスペイン語版の御書に寄せた「序文」の中で、次のように強調していた。 「本書によって開かれる対話の道には、スペイン語圏に広まる多くの宗教と仏法との対話を前進させるという文明論的意義も含まれていると考える」 「現代の宗教間の対話において、それぞれの違いは違いとして認め合いつつ、各宗教の洞察と真実を学びあっていけば、人間の幸福のための宗教として、互いに錬磨していくことができるに違いない。 そして、この対話と相互錬磨の道をどこまでも歩み続けて、人類の全宗教がそれぞれの固有の価値を発揮しつつ、『人間のための宗教』として結びつき、世界平和実現への最大の力になっていくことを、私は念願している一人である」と。 池田先生の思いを受けてスペイン創価学会では、平和の潮流を生み出すための宗教間対話に積極的に取り組んできた。また、こうした対話は、アメリカSGIやイタリア創価学会、アルゼンチンSGIなど、他の国々でも着実に進められている。 宗教間の相互理解は、その思想が多様な言語に訳されるという土壌がなければ、花開かせることは難しい。池田先生は第3代会長として、またSGI会長として御書の翻訳を力強く後押しする中で、その道なき道を敢然と開いてきたのである。 <語句解説> 英語人口 英語を母国語とする国に加え、第二言語で使用する国などを含めると、世界では英語の使用人口が最も多く、約15億人に達するといわれる。 三大言語 母国語や公用語で使用する人口が多い言語として、一般的に英語、スペイン語、中国語が、世界の三大言語と呼ばれる。 宝塔 法華経見宝塔品で現れた、金や銀などの七宝で飾られた巨大な塔のこと。日蓮大聖人は、妙法を信受する人はその宝塔と同じ尊貴な存在であると説いた。 地涌の菩薩 法華経の従地涌出品で、釈尊の呼びかけに応えて、娑婆世界の大地を破って涌き出てきた無数の菩薩のこと。釈尊から滅後の法華経の弘通を託された。 ※次回(第31回)は4月7日に配信予定 池田先生 「第7回本部幹部会」でのスピーチ (1988年7月) 私の胸には、日興上人の次の仰せが、強く深く響き、また迫ってくる。(中略) ――かつてインドの仏法がしだいに東へと向かった時、インドのサンスクリットの音を漢語に翻訳して、中国へ、日本へと伝えられた。それと同様に、日本の、大聖人が使われた尊き言葉も、広宣流布の時には、かな(で書かれた御書)を訳して、インドへも中国(震旦)へも、世界中に流通していくべきである――との御遺命であり、必ずそうなるとの御予見である。(中略) この日興上人の御確信を仰いで、私も世界の広布に走った。御書の翻訳も厳たる軌道に乗りつつある。 ◇ 世界への広布の広がりも、皆さま方が日本のそれぞれの地域にあって、地道に、また着実に根を張り、活躍してこられたがゆえである。“わが地域の前進”こそが、そのまま“世界への流布”の原動力となる――。ゆえに、皆さま方こそ、もっとも大切な“根っこ”の存在なのである。(中略) さて、大聖人は仏法流布の方軌について、「教機時国抄」に、こう記されている。 「仏教は必ず国に依つて之を弘むべし」(御書全集四三九ページ)と。(中略) また「随方毘尼」の毘尼とは「戒」のことで、仏法の本義に違背しないかぎり、各地域の風俗や習慣にしたがい(随方)、また時代の風習にしたがう(随時)べきであるとの戒である。 仏教は本来、こうした幅広い柔軟な考え方をしている。信心を根本に、その国の良き国民とし、良き市民として、ありのままに伸び伸びと成長し、社会に貢献していくことが、大聖人の仰せにかなった正しき軌道なのである。 ともあれ世界は広い。いよいよ、これからである。私は今、一年また一年、限りなき希望をいだきながら、また真心の応援を重ねつつ、本格的な“世界の舞台”を開くために、一つ一つ盤石な布石を打っている。私どもの努力は、時がたてばたつほど、壮大な未来図として結晶すると確信している。 (『池田大作全集』第71巻) |