第28回 戸田先生 「方便品寿量品講義」㊦ 25年2月4日 |
戸田先生は法華経の方便品の講義を通し、「煩悩即菩提」の法理に象徴される日蓮大聖人の仏法の真髄について、次のように述べた。 「釈迦仏法においては、いろいろの執著は発展を妨げるものとして、阿羅漢や縁覚の境界になるのに執著を断ち切る修行をしたのであります。しかし、末法における日蓮大聖人の仏法では、意味が違ってまいります」 「執著を離れさせるのではなくて、執著を明らめて使いきる境涯になればよいのであります」と。 また、教学面からの説明を一つ一つ丁寧に行うだけでなく、庶民の生活実感に即した言葉でこう呼びかけていた。 「みんなに執著があるから、味のある人生が送れるのであり、大いに商売に折伏に執著し、われわれの信心で、その執著が自分を苦しめないようにし、自分の執著を使いきって、幸福にならなければならないのであります」 人生の悩みや生活面での苦難に直面する中で、大聖人の仏法に巡り合ったばかりの新入会の同志が、戸田先生の確信あふれる言葉と慈愛のこもった指導に、どれほど勇気づけられ、励まされたことであろうか。 ![]() 核兵器禁止条約の採択の2カ月後、「原水爆禁止宣言」60周年を迎えた2017年9月に、横浜・三ツ沢の競技場を訪れたSGIの友。戸田先生が宣言を発表した同じ場所に立ち、核兵器の廃絶を目指す決意を新たにした 一方で戸田先生は、釈尊の弟子である舎利弗たちが「二乗」の境地に安住していたことに触れた箇所で、「二乗」が陥りやすい傾向をこう表現していた。 「もろもろの執著を離れて、もう世の中はこれでいいのだと思いこんでいる」と。 さまざまな執著から離れ、煩悩を断ち切ることは、一見、高尚な行為のようにも映るが、そこには大きな陥穽がある。 他の人々や社会に対して関心を持たず、世の中を良くしようと努力する人たちに対しても、冷淡になってしまう態度につながりかねないからだ。 そうした“世の中のことを見限ってしまう心”を打ち破り、人々や社会のために尽くす人生を共に歩もうというのが、大聖人の仏法の精神であり、戸田先生はその生き方の範を自らの姿をもって示したのである。 戸田先生は1953年6月、池田先生と共に出席した蒲田支部の総会で、自身が深く一念に定めて行動してきたものを示すかのように、こう述べた。 「いかなる大難があろうとも、私は広宣流布の大願を絶対に捨てません」 「私は、やるべきことをやっていきます。それは、貧乏人と病人、悩み苦しんでいる人々を救うことです。そのために、声を大にして叫ぶのです」 当時、学会に対する嘲笑や偏見が絶えなかったが、戸田先生はまったく意に介さなかった。 「学会を貧乏人と病人の集まりだなんて悪口を言うものがいたら、こう言ってやりなさい。 『それでは、あなたは、貧乏人と病人を、何人救ったのですか』と」 この自負にこそ、戸田先生にとって決して手放すことができない執著が凝縮していたのだ。 ![]() 昨年6月から7月にかけて行われたSGI青年研修会。60カ国・地域から参加したメンバーが、信心を通して「使命の人生」を切り開いた喜びを分かち合った(東京・新宿区の創価文化センターで) 戸田先生の執著は、人類が直面する深刻な課題にも向けられていた。その最たるものは、核兵器の禁止と廃絶である。 死刑制度に反対していた戸田先生がなぜ、1957年9月の「原水爆禁止宣言」で“核兵器を使用した者は死刑にすべき”とまで主張したのか。 小説『人間革命』第12巻で、池田先生はその真意について、次のように解説している。 「もし、戸田が、原水爆を使用した者は『魔もの』『サタン』『怪物』であると断じただけにとどまったならば、この宣言は極めて抽象的なものとなり、原水爆の使用を『絶対悪』とする彼の思想は、十分に表現されなかったにちがいない。 彼は、『死刑』をあえて明言することによって、原水爆の使用を正当化しようとする人間の心を、打ち砕こうとしたのである」と。 つまり、死刑という処罰自体を求めたのではなく、その言葉を用いることで、核兵器の使用は絶対に許してはならないことを示したのだ。池田先生はその遺訓を胸に、核廃絶を目指す人々との連帯を広げていった。 そして、国際社会で核兵器の非人道性に対する懸念が強まる中で、2017年7月に国連で採択されたのが、「原水爆禁止宣言」の精神とも響き合う核兵器禁止条約だったのである。 御書に、「瞋恚は善悪に通ずるものなり」(新742・全584)とある。怒りは、他人を傷つける方向にも向かうものだが、人間の生命と尊厳を脅かす問題や不正義に対する憤りは、時代変革の力を生み出す源泉になることを示した法理だ。 執著も瞋恚も、社会を良くするための原動力にすることができる――そこに、大聖人の仏法の真髄がある。そして、時代変革への挑戦が一代で終わることなく、世代を超えて水嵩を増すことを証明してきたのが、創価学会であり、SGIであった。 池田先生が40回にわたって続けてきた平和提言を継承する形で、本年から、SGIが地球的な課題を巡る声明を継続的に発表することになった。その初回として先月15日に発表された声明のテーマとなったのも、核兵器の問題にほかならなかった。 池田先生が戸田先生から受け継いだ核廃絶への信念は、学会とSGIの平和運動の揺るぎない柱となっているのである。 |