〈教育本部セミナーから〉
 作家 佐藤 優氏の講演(要旨)
 創価の教育は平和と幸福を築く力
24年8月6日
 
教育本部主催のセミナーが7月28日、巣鴨の東京戸田記念講堂で開催され、作家の佐藤優氏が「教育で未来をひらく――今こそ『教育の力』を信じ抜いて」とのテーマで講演した。ここでは、その要旨を掲載する。

課題解決の具体的方途は「人間革命」の哲学の中に!

前向きな理由
まず私が驚いたことをお話しします。それは創価学会教育本部が本年5~6月に、教育・保育・児童福祉等の仕事に携わる方を対象に行ったアンケート結果についてです。

「現在の職場環境」に、「満足している」「ある程度満足している」の合計が、「満足していない」「あまり満足していない」を上回った。これは日本社会の実態とは異なる結果です。学会以外の調査では、きっと不満の声が続出するでしょう(笑)。

教育関係者の働く環境は、それほど厳しくなっている。では、なぜ厳しい環境の中でも前向きでいられるのか。それは教育本部の皆さんが、池田大作先生の指導に照らして「自分には何ができるだろう」という自発的な精神で教育に取り組み、そのことが周囲の人にも良い影響を与えているからではないでしょうか。

東京戸田記念講堂で行われた教育本部主催のセミナー。作家の佐藤優氏が、創価の人間教育の力について語った(先月28日)

教育は、言うまでもなく重要です。池田先生も、次代を担う人間と文化を創造する教育の重要性を踏まえ、立法、司法、行政の三権から「教育権」を独立させる「四権分立」を提唱されました。

そもそも、創価学会は戦前、初代会長の牧口常三郎先生が『創価教育学体系』を発刊したことから始まり、元々は「創価教育学会」という教育者の団体でした。

第2代会長の戸田城聖先生も戦前、『推理式指導算術』を発刊し、牧口先生の教育出版事業を支えるとともに、戦後すぐに通信教育を始められました。日本の復興のためには民衆に教育を施すことが重要であると考え、実践されたのです。

そして、第3代会長の池田先生は、創価教育の学校を幼稚園から大学まで創立されました。

池田先生は、指針集『わが教育者に贈る』の「発刊に寄せて」の中に「創価学会の出発は、教育です。創価学会の誇りもまた、教育です」とつづられています。

この牧口先生、戸田先生、池田先生と続いた教育への思いを受け継ぎ、21世紀の日本において、教育の最前線で実践しているのが教育本部の皆さんなのです。

何のための学力か
本日の講演は「今、教育現場で起こっていること」というミクロの視点と、「世界や人類の今」というマクロの視点に分けて話したいと思います。

今、国内では経済格差が深刻化し、教育現場にも大きな影響を及ぼしています。

私はこの8年間、同志社大学の客員教授として教壇に立っていますが、同じ学力レベルの学生でも、親の経済力の違いで、学生時代の経験や卒業後の進路に大きな差が生じていると感じています。

例えば、ある学生は海外留学を経験し、英語が堪能。幼少期から続ける楽器演奏の活動で国内を飛び回り、経験を積みながら力を付けている。

一方、別の学生は奨学金を借り、アルバイトをしながら国家公務員を目指しているが、教科書や予備校の費用も工面しなければならず、夢の実現は難しい状況にある。

こうした格差が、この8年間で驚くほど進んだことを実感しています。

中でも、親の経済力の影響が最も顕著に表れるのが中学受験です。

一般的に、小学4年生ごろから6年生までの受験期は、まだ自我が確立する前であるため、親が子どもの勉強に張り付かざるを得ない場合が多い。塾にも通わせ、さらに塾の教材を消化するために、もう一つ別の個別指導塾に通ったり、家庭教師を雇ったりするケースも散見されます。どれだけお金をつぎ込むかがものを言う中学受験の現状を「課金ゲーム」と表現する人もいます。

また近年、進学校では大学受験対策に重きを置き過ぎて、かなり早い時期に生徒を文系と理系に振り分ける傾向がある。国立大学の医学部を狙うような中高一貫校では、数学の成績が振るわない生徒の進路を、私立文系の難関大学に切り替えさせることもあります。

志望校の受験に不必要な科目を“捨てる”現象が起き、難関大学に合格しても、特定の知識や教養が“欠損”している学生が多く生まれています。

このような現代教育の構造的な問題に対して、子どもたちと徹底して向き合う創価の人間教育が果たす役割は大きいと感じています。

また創価教育には、培った知的能力を「何のため」に使うのかを考えさせ、「民衆・大衆の幸福のため」に生かすことを教える伝統があります。

創価学園には、こうした正しい教育哲学が脈打っているから、偏ったエリート主義に陥らないのではないでしょうか。

このような確固たる目的観や学びへの動機付けこそ、これからの教育に必要です。それを各教育現場で伝えているのが、教育本部の皆さんです。

新たな“戦前”
また、グローバルな視点からも創価の人間教育は重要です。

世界では今、極めて不思議な現象が起きています。それは、経済がグローバル化する一方、政治においてはグローバル化に反する形で、国家機能の強化が進められているということです。ウクライナやガザ、そしてアメリカで起きていることは、その象徴です。

あるテレビ番組で、大物タレントが“現代は、新しき戦前のようだ”と話していましたが、私も同じ認識です。これを断じて“戦中”にしてはならない。それこそ、ここにいる私たちの共通した考えだと信じています。

世界で分断が進み、紛争が絶えない中で、子どもたちに一貫して人間生命の尊厳性を訴え、平和と幸福を目指す人材を育成し続けてきたのが教育本部の皆さんです。

小説『新・人間革命』第24巻「人間教育」の章には、当時の教育部のメンバーが人間教育運動の推進のために話し合いを重ね、「地球上の諸民族は、運命共同体であり、人間共通の『生命尊厳』の自覚に立って、世界平和の実現をめざすことでも、意見の一致をみた」と書かれています。

教育本部が地元組織と連携して開催する家庭教育懇談会。保護者らが集まり、子育ての悩みと喜びを共有する(本年1月、神奈川・平塚文化会館で)

昨年9月の国連総会でも、「人間の尊厳」に光が当たり、核軍縮の推進について話し合われたことが話題になりました。この人間の尊厳も、教育本部の皆さんが教育現場で伝えていることです。

本年5月には、原田会長がバチカン市国でローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇と会見しました。原田会長は、小説『人間革命』の冒頭につづられた「戦争ほど、残酷なものはない。戦争ほど、悲惨なものはない」との一節を紹介。創価学会がこの精神を根本に平和運動を展開していることを伝えると、教皇は「大切なことです。賛同します。私も同じ意見です」と応じたのです。

実は1975年に、池田先生とローマ教皇の会見が一度は決定しながら、日蓮正宗宗門の横やりで実現しなかった歴史があります。

今回、私は、原田会長が師匠の遺志を受け止めてローマ教皇との会見を果たし、学会の平和精神と、カトリック教会のトップの意見が同じであると示したことは、大きな意味があると感じます。池田先生が亡き後も、先生の精神は創価学会の活動の規範となり、世界を平和な方向へと動かしていく力となることを証明したと思うからです。

これも「生命尊厳」の自覚に立って、世界平和の実現を目指す人間教育運動の中から生まれたものと言えるのではないでしょうか。

全ての答えが
では、現実に横たわる格差や平和への課題を具体的に解決する糸口は、どこにあるのか。

私は、創価学会の精神の正史として、池田先生が著された、小説『人間革命』『新・人間革命』に全ての答えが書かれていると、はっきりと申し上げておきます。

だからこそ私は、何度も通読しています。現在、『人間革命』は5回目、『新・人間革命』は2回目です。学会の皆さんが大切にしている「七つの鐘」になぞらえて、7回読もうと決意しています。

ここには、戦争に向かう兵士の心境も、課題を抱える教育現場での教師の振る舞い方も、子どもが幸福になり、より良い社会を築いていくための方途も、一つ残らず書かれています。

厳しい現実に悩むこともあるでしょう。しかし私たちは『人間革命』『新・人間革命』を通して、池田先生と“会う”ことができる。相談し、指導を受けることができるのです。

最後に、きょう私は、東京戸田記念講堂で講演をしました。会場の後方には、牧口先生、戸田先生に加えて、新たに設置された池田先生の肖像が見つめておられます。私は、大変に緊張しています(笑)。

しかし、三代会長に見守られる中、約2000人の教育者の皆さんの前で、人間教育に関する講演をさせていただいたことに深い意味を感じていますし、感謝しています。

これからも、現実の上に幸福と平和を創造し、「未来をひらく」ために、力を合わせて進んでいきましょう。