| トーマス・カーライル 25年12月14日 |
![]() 〈トーマス・カーライル〉 人生の幸福は 生きることの中にはなく、 正しい活動の中にある。 『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』などの名作で知られ、世界文学に不滅の金字塔を打ち立てたドイツの大文豪ゲーテ。 そのゲーテが晩年、信頼を寄せた一人の「弟子」が、異国の地にいた。今月、生誕230年を迎えたイギリスの歴史家トーマス・カーライルである。 「人生の幸福は生きることの中にはなく、正しい活動の中にある」 「よき種子を蒔くこと、また蒔いたということはたしかにあらゆる光栄の最高のものであります」 彼が残した言葉には、精神の師と巡り合い、正しい人生の軌道を知った喜びがあふれている。 カーライルは1795年12月4日、スコットランドの小さな町エクルフェカンで生まれた。一家は敬虔なキリスト教徒で、謹厳実直な父の影響を受けながら幼少期を過ごす。数学やラテン語などで優れた才能を発揮し、父の母校を卒業すると、1809年、牧師になるべく13歳でエディンバラ大学の門をたたいた。 だが、複雑かつ高度な学問を吸収すればするほど、信仰心は冷めていく。結局、両親の期待を裏切る形で牧師への道を閉ざす。教師になったものの、やがてその職も辞してしまった。 その後は心身の不調などに苦しみ、家庭教師や百科事典の編さんの仕事で生活をつなぐ日々が続いた。そんな無力感から解放してくれたのが、ゲーテの著作だった。 語学の才にたけていたカーライルは、19年ごろからドイツ語の習得に励んだ。24年にはゲーテの教養小説『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』を翻訳出版。ゲーテの著作と出あえた感動をつづった手紙と共に、本人に送った。 するとゲーテから、翻訳に対する感謝と、交流を続けたい旨の返信が届いた。以後、文通はゲーテが亡くなる前年まで7年間にも及んだ。ある時は、ゲーテの作品を通じて使命を知ることができた感謝を次のように記している。 「もし私が暗黒から救われて、或る程度の光明に達したとすれば、また私が自分自身について、私の義務や使命についていくらか知るところがあるとすれば、それは他のいかなる事情よりも、あなたの作品の研究のお蔭なのです。 私は、弟子が師に対する感情を以って、そればかりでなく息子が精神的父親に対する感情を以って、常に感謝と畏敬とを、誰によりも多くあなたに捧げねばなりません」 〈トーマス・カーライル〉 誠実――深く、大きく、純なる 誠実こそ、総じて英雄的なる 人物の第一の特性ともいえよう。 ゲーテと交流し、師の著作を学ぶ中で、カーライルは自らを苦しめていた懐疑の念を克服する。 人間の内部に宿る宇宙大の可能性に目覚めた彼は、自己の義務を果たし、日々の労働に励むことこそが救いであると信じ、精力的に著述活動に取り組んでいく。 1834年、妻と共にロンドンのチェルシーに移住。のちに代表作となる長編の歴史書『フランス革命史』を書き始める。 執筆中には、思わぬトラブルに巻き込まれたこともあった。カーライルが第1巻を書き上げた後、哲学者ミルが書評を書くために原稿を借りた。ところが、ミルの家政婦が誤って原稿を焼却してしまう(諸説ある)。数カ月に及ぶ苦闘が、一瞬にして灰と化してしまったのだ。 カーライルの落胆は大きかった。しばらくの間、何も手がつかなかったという。しかし“第一に貴いのは、この艱難を耐え、再び筆を執って書き直すことだ”と自らを鼓舞。約半年後、再び原稿を完成させた。 思想家の内村鑑三は後年、ある講演で、このエピソードに言及。どんな不運に見舞われても、事業を貫徹したカーライルの勇気を、後世への“良き遺物”として紹介している。 『フランス革命史』が出版されたのは37年。事実の羅列ではなく、生き生きとした筆致で人間ドラマを描いた同書は、ベストセラーとなり、歴史家カーライルの名を不動のものにした。 41年には、自身の講演の内容をまとめた『英雄崇拝論』を発刊。世界史は真に偉大な英雄によってつくられるとし、古今の詩人、革命家など多岐にわたる人物を取り上げている。 カーライルが最も重視した「英雄の特質」とは何か。それは「誠実さ」であった。 「誠実――深く、大きく、純なる誠実こそ、総じて苟くも英雄的なる人物の第一の特性ともいえよう」――彼は虚飾を捨て、鍛え上げた自らの不動の信念に生きる者こそ、真の英雄であると論じた。 カーライルは、産業革命を経て生活の機械化・画一化が進む世の中に対して、人間精神の自由や偉大さをうたい上げたのである。 晩年には、母校エディンバラ大学の名誉総長に就いている。 就任演説では、良書を読む重要性を力説。さらに「どうしてもせずにはいられない助言が一つあります」と述べ、未来を担う学生たちにこう語りかけた。 「諸君の生活全体がりっぱな意味を持つか否かは、諸君が教育を受けに来られたこの場所において、今日ただ今、諸君が勤勉であるかどうかにかかっている」「勤勉、それは学生が持ちうる一切の美徳を含んでいます」 〈カーライルを通して語る池田先生〉 人生は―― 師匠によって決まる。 同志によって決まる。 いかなる勝負も勝ち抜ける苦労と 忍耐と決意によって決定される。 池田大作先生は青春時代、カーライルの著作を愛読した。 若き日に胸に刻んだカーライルの言葉の一つに「最初に『越えがたき難所に道を切り拓く』その人に誉れあれ! かくのごときが実に、すべて偉大な人間の任務である、――否、東西のあらゆる善き人の任務である」がある。 また、自身が読んだ本の中から心に残った箇所を抜き書きしたノートには「理想が、汝の内にある如く、障害も又、汝の内にある」など、カーライルの箴言も多く含まれている。 牧口常三郎先生の悲願である創価大学の構想を、戸田城聖先生と語り合っていた時のこと。池田先生は、自らが感銘を受けたカーライルの「時代の要求するものを真に見抜く叡智と、正道を踏んで時代をそこに導く勇気とは、これこそ時代の救い」との洞察の言葉を恩師に伝えた。 すると、戸田先生は「牧口先生は、そういう力ある英知の人材を育てることを願っておられた。それが創価大学だ」と応じている。 後年、池田先生は折々にカーライルの指針を紹介し、世界の創価家族に励ましを送ってきた。 「カーライルは言う。 『人間はたたかうように創られている』 『人にとってたたかうことは、永遠に避けられないものである』 人生は闘争である。もしも、戦いを避けるならば、その先は敗北しかない。 私たちの広宣流布の運動は、平和の方向へ、幸福の方向へと、人々の一念を根底から変えていく戦いなのである」(2003年1月8日、第24回本部幹部会でのスピーチ) 「『世界の偉大な深遠な法則にわが身を合致させる限りにおいて、正しく、無敵であり、有徳であり、確実な勝利への途上にある』 私どもにとって『偉大な深遠な法則』とは、宇宙の根本法である南無妙法蓮華経である。 御本尊に勤行・唱題し、わが身を合致させ、境智冥合した時、自身のうちに偉大な智慧がわく。そして、確実に『大勝利の人生』の軌道を進んでいけるのである」(同年2月5日、第25回本部幹部会でのスピーチ) 「“今日という日がある限り働くのだ”――これは、健康長寿の生命を謳歌しながら、一生涯、みずみずしい創造を続けた大文豪ゲーテの心意気であった。 ゲーテを“心の師”と仰ぐ、19世紀のイギリスの高名な歴史家カーライルは、この師匠の心に応えて、満々たる決意を語った。 『前進! 前進あるのみです!』 前進――来る年も来る年も、また来る日も来る日も、彼の師ゲーテは、天座を巡る太陽の如く、赫々と王者の軌道をたゆまず進み抜いた。ならば、弟子である自分もまた、そうあらねばならぬ。それが彼の誓いであった」(08年1月9日付本紙「随筆 人間世紀の光」) 先生は、長編詩「師弟不二の栄光は永遠なり」で詠んだ。 カーライルは 師匠と仰ぐ大文豪ゲーテに こう感謝を書き送った。 「我々の最高の、 おそらくは唯一の恩人は、 言葉と行為によって 我々に叡智を 授ける人である」 すなわち師匠である。 人生は 師匠によって決まる。 人生は 同志によって決まる。 そして人生は いかなる勝負も勝ち抜ける 厳しい厳しい 苦労と忍耐と 決意によって決定される。 さあ、世界青年学会の「飛翔」から「躍動」へ!――「祈り」で勝ち、「団結」で勝ち、「師弟」で勝ち進もう。 |