第2回「宗教間対話Ⅰ」㊦ 25年3月2日 |
![]() 池田先生とドゥ・ウェイミン教授との会見(2005年4月、創価大学で)。教授は対談集『対話の文明』の中で、こう語っている。「真の思想家、真の宗教指導者とは、教義論争に陥るのではなく、新しい思考方法や行動様式のために、既成の壁を打ち破っていく存在であります」「(池田)会長は、仏教の慈悲の理念に基づく『平和の文化』の建設者として、『対話の文明』の促進のため、意義深い運動を世界的に推進されてきました」 「人類の宿命転換」を目指し、池田大作先生の思想と行動を学ぶ本連載。 2月28日付に続き、「宗教間対話Ⅰ」㊦を掲載する。 ■対立ではなく、補完し合う 社会の奥底に巣くう「人類の宿命」とも言うべき諸悪について、池田先生と歴史学者アーノルド・トインビー博士の見解は一致していた。 すなわち「生命につきまとう貪欲」と「文明につきまとう戦争および社会的差別」、そして「科学を技術に応用してつくり出した、人為的環境」である。 博士は、こうした「人類の生存をいま深刻に脅かしている諸悪」と対決し、これらを克服する力を人類に与える「未来の宗教」が必要と論じた。 池田先生は、その宗教の要件の一つとして、次のように述べている。 「これからの人類文明のあり方を考えると、このようにいえるのではないでしょうか。 すなわち、科学技術といった一分野のなかでの進歩のためには、西洋的な一神教の姿勢が有利ではあるが、人間に対しては各民族の自主性を守り、自然に対しては自然環境の破壊や汚染をくいとめるためには、東洋的な汎神教の姿勢がより大事であると――。 この両者は、今後、対立し合うのではなく、互いに補完し合っていかなければならないでしょう。 また、双方ともに、止揚(編集部注=矛盾や対立を包括的に受容し、高次の段階に高め、新たな調和や価値を生むとの意)されるべき点もあると思います。 こうした高い次元において、科学的にも哲学的にも文明をリードしていくもの――それが新しく望まれる宗教ではないでしょうか」(『二十一世紀への対話』聖教新聞社) ![]() 昨年5月、原田会長とカトリック教会のフランシスコ教皇との会見。会長が小説『人間革命』の冒頭の一節「戦争ほど、残酷なものはない。戦争ほど、悲惨なものはない」を通し、学会がこの精神を根本に平和活動を展開してきたことを語ると、教皇は「大切なことです。賛同します。私も同じ意見です」と応えた(バチカン市国のアポストリコ宮殿で)©Vatican Media 昨年5月、バチカンのアポストリコ宮殿で行われた、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇と原田会長の会見は、そうした理念を現実のものとするための大きな一歩となった。 「混迷する現代にあって、平和を希求する宗教として、差異を乗り越え、人間愛に基づく行動を共にすることを願っています」と述べた会長に、教皇は「大変に素晴らしいことです」と応じた。 各宗教の世界観や教義などの差異を超え、人類益のために手を取り合う。 まさしく、池田先生が示した「止揚」の方向性であり、東洋と西洋を代表する宗教団体のリーダーが「平和」への決意を分かち合った瞬間である。 会見実現への潮流をつくったのは、池田先生の精神と実践を受け継ぐイタリア創価学会メンバーの「草の根の宗教間対話」であった。 メンバーは先生の指針を胸に、人類益への貢献を志向し、勇敢に宗教間対話に臨んだ。その過程は、以下4点に大別することができる。 第一に、「相手を知る」。 「『よく知る』ということが、友好を深めるための第一歩となります」(『二十一世紀への選択』潮出版社)との池田先生の言葉を体現するように、カトリックの主要な社会的メッセージを学んだ。 第二に、「共通点を探す」。 「私たちが知りたかったのは、創価学会とカトリックにおける共通点や親和性は何かという点でした」 そう語るのは、イタリア創価学会の広報担当であるエンツォ・クルシオさん。初期キリスト教を中心とした宗教史の研究者で、カトリックの教義にも精通している。 ■一致点も、不一致点も クルシオさんは、創価学会とカトリック教会の共通点について、「宣教の精神」や「集まり(集会)を大切にする姿勢」などを挙げつつ、「最も多くの共通点があるのは『社会的関与と貢献の精神』」であると強調した。 「カトリック教会には、社会正義、慈善活動、宗教間対話の長い伝統がある一方、創価学会は平和、核軍縮、教育の促進に非常に積極的であり、しばしば国際機関とも協力しています。これらの共通のテーマは、私たちの共同作業の機会を数多く提供してくれました」 池田先生は「対話」の要諦として「一致点を見いだすことも」「不一致点を見いだすことも」有意義であると語っている。(1975年11月「第38回本部総会」) 相違点へのこだわりを捨て、いかに高次の目標と理想を共有できるか。そこに焦点を絞った。 第三に、「同じ社会に生きる一市民として、友人になるための対話を始めた」。 イタリア創価学会のメンバーは、各市で定期的に教会を訪問し、司教との交流を重ねた。 教会が主催する宗教間対話のイベントにも積極的に参画。2000年代に入り、イタリア創価学会のメンバーが全国各地に陸続と誕生(現在は10万人超)する中で、草の根の宗教間対話も大きく広がった。こうした地方教会との交流と並行し、信徒団体との友好も結んだ。 世界規模で最もダイナミックに活動するカトリックの信徒団体の一つ「聖エジディオ共同体」との交流の起点は「カプチーノ外交だった」と、クルシオさんは振り返る。 「カフェで朝食を共にしたことが、交流のきっかけでした。『友人』としての語らいを重ねる中で、聖エジディオ共同体が、生命尊厳の観点から『死刑制度廃止』のために尽力してきた経緯を伺い、私たちの理念と響き合うことから、その運動を共働するようになったのです」 ■相互尊敬の証し 次に「社会貢献への歩みを共にする」。これが、第四の要点である。 2000年、イタリア創価学会は聖エジディオ共同体と共に「死刑の一時停止」を求める全国キャンペーンを展開。イタリアの青年部の熱意と行動力が、運動を牽引した。クルシオさんは言う。 「青年部を中心に、全国で100万人の署名を集めると、聖エジディオ共同体のメンバーは驚嘆していました。これにより、彼らとの信頼関係は揺るぎないものとなり、その後の共働につながっていったのです」 こうしたイタリア創価学会の取り組みに呼応するように、日本の学会本部とカトリック関係者の対話も本格的になっていく。 17年11月には、バチカン市国で行われたローマ教皇庁・総合的人間開発省が主催する、核兵器のない世界への展望を巡る国際会議に、創価学会が協力団体として招へいされ、池田博正主任副会長をはじめ代表が参加している。 会議初日には、池田主任副会長がフランシスコ教皇に直接、池田先生からの伝言を伝えている。 この折、同省庁からの要請で、2011年以来、イタリア創価学会が中心となって進めてきた「センツァトミカ(核兵器はいらない)」運動の展示も、会場内で行われている。 立ち上げから運動を中心的に担ってきたダニエレ・サンティさん(イタリア創価学会渉外部長)は、その意義をこう語る。 「この要請は、カトリックの人々との間で長年にわたり培われた相互尊敬の証しともいえる出来事でした。この展示を通し、バチカン市国の重要な会議場で、池田先生の平和提言とローマ教皇のメッセージをともに掲示し、来場者に伝えることができました」 ![]() バチカン市国で開かれた核兵器廃絶を巡る国際会議。池田主任副会長が「人間精神の変革」をテーマに登壇した(2017年11月) ハーバード大学のドゥ・ウェイミン教授は、池田先生との対談集『対話の文明』の中で、こう述べている。 「現代の宗教者は、一方で“それぞれの信仰共同体の言語”を語るとともに、他方で“地球市民としての言語”を語っていく必要があると思います。この二種類の言語に通じることが、“文化的独自性の要求”および“人類共通の幸福”の両方に応えていくことになるのです」 それを踏まえ、池田先生はこう結論している。 「宗教間対話が実りをもたらすためには、互いの教義の比較や優劣を争うことに目を奪われてしまってはいけない。むしろ、現実の社会の問題を解決するためにどうすればよいのかという、『問題解決志向型』の対話を進めることが大切になるのではないでしょうか」 ここに、創価学会の「宗教間対話」の特性がある。 師の呼びかけに呼応する弟子たちが今、世界同時進行で、宗教間の対話に挑戦している。 |